第2回将棋電王戦

QA

GPS将棋の名前の由来

GPS将棋は,東京大学総合文化研究科の田中哲朗研究室,金子知適研究室が中心のゼミのメンバーを母体に有志が集まって (現在6名) 開発している. そのゼミの名前のGPS (Game Programming Seminar) がプログラム名の由来となっている。

使用予定ハードウェア

東京大学駒場キャンパスにある計算機を用いてリモート参加する. メインは,東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムの学生用端末 (iMac: Intel Core i5 2.5GHz 4core, 4GB) 667台 (予定) である. 他に数台のサーバやデスクトップPCも加える予定.

良い点

数百台の計算機を繋いだ大規模クラスタで将棋プログラムを動かすことが最大の特徴である. これによって広く,深く読むことができるので,数手で崩れるような悪手を避けられると期待される. 1秒間の探索局面数は今回の構成では2億局面を超える予定であり,この数値は1997年に世界チャンピオンを破ったチェスコンピュータ Deep Blue にも並ぶ. プログラム内部では,利きや挟撃などの将棋の考え方を広く取り入れた形勢判断と,高速に詰みを見つける専用の探索を持つことが強みである.

苦労

数百台の計算機クラスタを用いる場合は,一般的に故障の心配が常にあり,また正 常であっても準備の手間は一台の場合とは比べ物にならない.たとえば人手で 電源を入れて回ると,1時間半かかる(*).将棋プログラムを動かすうえでも,通信 相手の機器が突然故障するなどの状況も想定して対処法をあらかじめ準備して おく必要があり,プログラムが複雑になるという難点がある.さらに,GPS将棋 が使用する予定の計算機群は普段は学生の教育に用いられる機器であり, 準備やテストのほとんどは実機では行えないところも苦労が大きい.

(*)背景: 自動起動の仕組みは複雑で様々な理由で失敗しうるため,対局に影響させないためえには失敗しても人出で対処可能なように予定を立てる必要がある.

気持ち

6年ぶりの現役プロ棋士の方々とコンピュータ将棋の対局が実現することを大変嬉しく思う。出場チームの一員としては、鑑賞に堪える棋譜を残せるようしっかり準備したいと考えている。 コンピュータ将棋プログラムは様々な開発者の貢献や研究の公開によって進歩してきた。今回の対局はこれまでの進歩を問われる場とも位置づけられるので、しっかり準備したい。

コンピュータプログラムとプロ棋士の対局を一局でも多く残すことが未来への財産になると考えているので,5対5の対局が実施されることは意義深いことと感じた.GPS将棋は2011年の世界コンピュータ将棋選手権では6位だったが,2012年の世界コンピュータ将棋選手権で優勝し,結果としてプロ棋士と対局する貴重な機会を得られて光栄である.

twitterで公開しているGPS将棋の指手を最近は将棋世界でも取り上げていただいているようで,研究者としてはコンピュータ将棋の強さに期待したい.

勝敗とは別に、鑑賞に堪える棋譜を残せたら良い。

最近の改良と準備

いつも通りの改良

評価関数(形勢判断)と探索(先を読む深さと広さ)

特に気にかけていること

頑健さ: 通信エラーで対局中断となれば大きな迷惑となる。機器の故障などがあっても対局に影響が生じないように、様々な障害のパターンを予想して事前に準備をする必要がある。なるべく頑張りたい。実際の計算機クラスタを使える機会は限られるので、小規模な実験を重ねるなどの必要があり、準備の難しさがある。

定跡: 定跡の暗記具合で勝負が決まるような展開よりは、「コンピュータ将棋が未知の局面でどれだけ良い/悪くない手を指せるか」が分かるような展開のほうが面白いのではないかと思う。一方で、あまりに早く乱暴に定跡を外れると、楽しみが減ってしまうかもしれない。具体的な調整は、これから試行錯誤したい。

三浦八段を意識した対策: 対局者にあわせた形勢判断の自動的な微調整などができれば興味深いが、今のところ実用には難しいと考えている。

研究の応用?

未来に関しては、将棋プログラムが学んだ内容を人間の言葉で表現出来るかどうか興味深い。それができれば、感想戦や解説などができるようになり、コンピュータと人間の関係が広がる。

将棋プログラムは、熟達者の棋譜から形勢判断を学んで強くなったが、今のところそれは何百万個の数値列なので、人間には理解が難しい。

Q. 将棋プログラムの研究は将棋などのゲーム以外の分野にも応用できるか?

http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/qa/QA2011w/A12_1.html

(補足)

コンピュータに関するの研究の一つの柱は、コンピュータが役に立つ場面を増やしてゆくことにある。コンピュータの能力は、答えがはっきり決まった課題(例: 電卓、単語検索)で特に発揮されるが、応用のためには、はっきりした答えが分からない時にも悪くない選択をできることが重要である。ゲーム研究もその一つで、将棋でも(詰みが見つかった後を除けば)勝敗を読み切れない状況で、何らかの判断で指す必要がある。実際に、コンピュータの判断力は、熟達者の棋譜から学ぶという機械学習技術の発展とともに向上してきた。

しかし現在のコンピュータの学習方法は人間が考える将棋の概念とは対応がとれていないので、コンピュータは感想戦や解説といったような言葉によるコミュニケーションが今のところできない。情報通信技術の発展に伴い社会におけるコンピュータと人間の関係の模索が続くなかで、将棋においてコンピュータと人間が指手だけでなく言葉や概念を共有できるようになるかどうかは今後の興味深い視点の一つと思われる。



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